概要
- 書名: サイファーパンク
- 副題: インターネットの自由と未来
- 著者: ジュリアン・アサンジ and ジェイコブ・アッペルバウム and アンディ・ミュラー=マグーン and ジェレミー・ジマーマン
- ISBN: 9784791767151
- 出版: 2013-07-25
- 読了: 2023-04-07 Fri
- 評価: ☆4/5
2023-03-30頃にmstdn.jp mastodon.cloud pawoo.netの保有者であるSuji Yanが以下の投稿をしており本書を全員が読むべきと絶賛しており興味を持って読みました。
ぐぬ管 (GNU social JP管理人)|[email protected]!sns 私も読んでみますかね。サイファーパンク。フリーソフトのあとに生まれた概念です。 Everyone should read ‘Cypherpunks’
無政府主義の基本論理に近いものを学べそうです。
https://twitter.com/suji_yan/status/1641226720337379333?t=t1UXnX6R1u-BhdlJu0veSA&s=19
評価
内容はサイファーパンクという暗号技術により、個人のプライバシー自由を権力者から守り、社会的・政治的変革を訴える人達の代表的存在であるジュリアン・アサンジとその仲間による座談会でした。
サイファーパンクをめぐるいくつかの重要な議論をフランクな形で記録したものでした。
ただ、内容はある程度既にサイファーパンクについてわかっている人向けの本で、そもそもサイファーパンクの重要性とか、意義、そういった根本的な部分がある程度理解している人向けになっていました。私はそこがいまいち理解できていなかったので、読んでいても根本的になぜそこにそんなにこだわるのかよくわからない状態で、やや消化不良でした。
私はFSF準会員で、サイファーパンクは、私が支持するフリーソフトウェア運動と重なる部分があり、主にその観点で、サイファーパンクの基本的な論理の理解・把握のために読みました。
内容が座談会形式なため、要点を自分で判断する必要があり、非常にわかりにくくて、読むのに疲れました。要点だけまとめてほしかったです。
読了直後の感想は以下です。
ぐぬ管 (GNU social JP管理人)|[email protected]サイファーパンクの本。p. 100あたりから分散に関する話があり、ここが特に重要な気がしました。 誰かわかりやすく手短にまとめてほしいですね。いちいち長くて小難しくて理解が難しいのですよ…
ぐぬ管 (GNU social JP管理人)|[email protected]replying to ぐぬ管 (GNU social JP管理人)|[email protected]そもそも反政府というのが、あまり腑に落ちないのですよ。 政府に不審があるから匿名、分散で自分を守るというのはわかります。影響力を持つために既存のインフラにのるしかない。これもわかります。 じゃあそれでどうするのですかね?賛同者を増やすということなのでしょうか?
ぐぬ管 (GNU social JP管理人)|[email protected]!politics サイファーパンクの本読了。suji yanが全員一度読むべきとありましたが、過大評価に感じました。RMSのフリーソフトの本のほうがよいです。 根本的な思想の違いです。無政府、匿名の実現にはフリーソフトは必須ですが、逆は偽です。フリーソフトのほうが重要です。
次の節で重要な部分を引用していますが、これでもわかりにくいので、さらに重要な部分を以下に整理します。
- サイファーパンク: 「弱者にプライバシーを、強者に透明性を。」が標語。政府や大企業の大規模監視が明らかになる。これに抵抗するには最高政府でも解けない暗号の数学の問題が有効。
- フリー・ソフトウェアとフリー・ハードウェアの重要性: ソフトウェアやハードウェアがフリーでなければ、悪用を検知できない。理解できないということは誤りにも気づくことができない。だからこれらが自由であることは非常に重要。
- 文明の利器の継続理由: インターネットや携帯電話を手放せば監視回避は可能。ただ、それをすると影響力がなくなる。そのため、既存文明の中で、影響力を保有して、技術的知識で人々を導くことがサイファーパンクの役目。
- 情報黙示録の四騎士: 児童ポルノ、テロ、マネー・ロンダリング、麻薬戦争。この4点が監視を推進する強力な論理になっている。この4点は当然問題だ。ただ、ごく一部の人間を取り締まるためだけに全員を弾圧するのは不当。悪人の問題ではない。権力者が気にいらなければ、いとも簡単に誰もが悪者にされてしまう。
- 対策: 分散化サービス、データのセルフホスト、暗号化。決済の自由化。
上記が本書で私が学んだことでした。
230ページ程度とあまり多くはない文量ですが、未知の概念が多く、読むのに疲れる本でした。
参考
p. 4: サイファーパンクとは何か?
サイファーパンクは、社会的・政治的変革に到達する手段として、暗号などの使用を唱道する。1990年代初頭に設立されたこの運動は、1990年代の「暗号戦争」と2011年のインターネットの春の後に最も活発化した。サイファーパンクという語は、暗号を表すcipherとpunkの合成語である。この語は2006年にオクスフォード英語辞典に追加された。
サイファーパンクの言葉の意味が書かれていました。ただ、なぜサイファーパンクという概念が登場したのか、何が大事でなぜこのような運動があるのか、これだけだとその本質の重要な部分が一切わからず、導入として不十分でした。
p. 008: 日本語版への序文
これを知った人類は今こそ、われわれの文明を進めていくべき方向を決断せねばならない。一方には、強者に透明性を、それ以外の者にプライバシーを促進する未来がある。もう一方には、わけのわからない諜報機関とその一味である多国籍企業の複合体あらゆる人々を支配する力を明け渡すインターネットがある。その選択は困難ではない。
原著が2012年に出版されて、エドワード・スノーデンが登場して、大企業や政府が人類への監視が明らかになって、「強者に透明性を、それ以外の者にプライバシーを」のキーワードが登場しました。これは本文内でも何度か触れられており、重要なキーワードに感じました。
p. 019: ディスカッション参加者
本書はサイファーパンク数名の議論を記録したものとなっており、ここで参加者の紹介がありました。
- ジュリアン・アサンジ: ウィキリークスの編集長。サイファー・パンク・メーリング・リストの設立者。「弱者にプライバシーを、強者に透明性を」のサイファーパンクの標語に政治的意味合いを与えた。国際的ハッカー・ムーブメントの歴史を描いた「アンダーグラウンド」の著者。これに基づいて映画「アンダーグラウンド–ジュリアン・アサンジ物語」が作られる。
- ジェイコブ・アッペルバウム: Torプロジェクトの提唱者。
- アンディ・ミュラー=マグーン: ICANNのヨーロッパ理事。
- ジェレミー・ジマーマン:。
p. 023: ウィキリークスとその関係者を迫害しようとする試みについて
ウィキリークスの使命は、内部告発者から情報を受け、公開し、不可避的な法的・政治的攻撃と闘うことだ。
2010年、ウィキリークスは今日までで最もよく知られる暴露を行った。公務上の秘密の濫用が米軍と米政府内部で組織的に行われていることを明らかにしたのだ。この公開は、<コラテラル・マーダー><ウォー・ログズ><ケーブルゲート>と呼ばれている。その結果、合衆国政府とその一味はウィキリークスを潰そうとあれこれ画策するようになる。
まず議論を始めるにあたって、ウィキリークス関係の最近の動向に言及されるので、その要約がありました。
p. 35: 拡大コミュニケーション 対 拡大監視
アンディ 市民的な観点じゃなくて、権力者の視点から見るべきだと思うよ。
「秘密を守る上で重要なものは?」。「そうですね、より良くコントロールするために速度を落とすプロセスですね」。これがこの朱の諜報業務の核だ。人々から理解力を奪って、プロセスの速度を落とす。あるものを秘密にするというのは、それを知っている人、つまりそのプロセスに影響を及ぼす力のある人の数を制限するということだ。
権力者の観点からインターネットを見れば、この20年は恐ろしいものだった。
そしてその答えが大規模監視なんだ。
インターネットの拡大を受けて、コミュニケーションと監視の拡大についての議論の中で、権力者の視点からいくと、インターネットは不都合なもので、その対策として監視がなされたという議論でした。
p. 44: フリー・ソフトウェアが重要
ジェレミー そしてこういう多目的なコンピューターを作れば作るほど、それはただのGPSとか、ただの電話とか、ただのMP3プレイヤーになっていく。どんどん組み込みコントロールの付いた機会を作り、ユーザーが特定のことをdけいないようにする。
ジュリアン 組み込みコントロールによって、人々はそれを理解できず、製造者の意図と異なる目的に使うことができない。だけど状況はなお悪い。それは実際にはネットワークに繋がっているからだ。
ジェレミー そう、それはユーザーとそのデータをモニタする機能を備えている。だからこそ、自由な社会にとってフリー・ソフトウェアが重要なんだ。
ジェイコブ その役割が果たされているかを実証できるか、またそれをどのくらいまでうまくできているか理解可能かということだ。人はしばしば、これに鍵をかけて秘密にする権利があると言いたがる。そしてコンピューターを複雑なものにしたり、それを理解するのを法的に難しくしたりする。それは社会にとって危険なことだ。なぜなら人は必ずしも皆の最高の利益のために動くわけではないから。それに人は–悪意でなくても–間違いをするし、だからこういうものに鍵をかけるというのはいろんな意味で危険だ。そもそも僕たちは誰もが不完全なんだから。これは厳然たる事実だ。僕たちの生活を支えるシステムの青写真にアクセスする能力は、フリー・ソフトウェアが重要な理由の一つだが、同時にまた、フリー・ハードウェアが重要な理由でもある。それによって自由に持続可能な投資をし、システムを改善し、これらのシステムが期待通りに動いているかどうかを見極めることができる。
だが自由は差し置いて、これらのシステムを理解するのが重要な理由はまだある。それを理解しなければ、人は得てして権威に従うという一般的傾向がある。権威とは、たとえそれ自体の本質は知らなくとも、ともかくそれを理解し、コントロールできる人のことだ。
サイファーパンクにおいて、フリーソフトウェアやフリー・ハードウェアが重要な理由でした。中身が理解できなければ、監視や何をされているのか、悪意があってもわからない。この点はフリーソフトウェア運動とサイファーパンクの共通の見解で、私はなんだか嬉しかったです。
p. 58: 人間の法によって完全監視と闘う 情報黙示録の4騎士
ジュリアン だけど、大規模盗聴を扱うには二つのアプローチがあるんじゃないか?物理法則と、人間の法だ。一つは物理法則を使って、頭頂を防ぐデバイスを実際に作ること。もう一つは、法律を通じて民主的なコントロールを規定し、人々が認可、つまり、規制上のアカウンタビリティを得られるようにすること。けれども戦略的盗聴はそうではない。
でもこれらは口実だよな–マフィアだとか、外国の諜報機関だとか–こういうシステムの構築を受け入れさせる口実だ。
ジェイコブ <情報黙示録の四騎士> だね。児童ポルノ、テロ、マネー・ロンダリング、麻薬戦争。
国家による監視の法整備を行うにあたって、それを正当化する論理として度々登場する情報黙示録の四騎士がここで初めて登場します。後にも登場します。
p. 074: 民間企業によるスパイ
ジェイコブ なぜなら直接関係しているのはサードパーティーであり、サードパーティーには君のデータを守る憲法上の理由はないからだ。
ジュリアン そのサードパーティーはツイッターであり、フェイスブックであり、君のISPでもある。
ジェイコブ その他何でもさ。銀行のプライバシーと電話のダイヤルの付いた一対一の写像らしいよ。電話を使えば意図的に番号を電話会社に明かしたことになる。知ってた?電話を使うってことは、「プライバシーは放棄しました」ってことなんだ。その番号を入力した時点でね。
監視の話と関連して、民間企業のデータ収集・監視についての議論がありました。電話番号の入力は個人を特定することになるので、注意が必要なようです。
p. 078: 物理法則によって完全監視と闘う
ジェレミー この段階で生じるかもしれない疑問は、個々のユーザーにとって、あるいは社会全体にとってのソリューションとは何かということだ。テクニカルなソリューションはある–分散化サービス、皆が自分のデータをホスティングする、データの暗号化、皆が身近なプロバイダを信頼し、プロバイダは暗号化データ・サービスを行う、等々。そしてここまで論じてきたポリシー・オプションがある。今の段階では、二つのアプローチの内のどちらがベストかどうかという問題に答えられるかどうかはわからない。二つのアプローチを同時に発展させるべきだと思う。われわれには誰もが理解でき、改造でき、何をやっているのかを解析できるフリー・ソフトウェアが必要だ。フリー・ソフトウェアはフリーなオンライン社会の基盤の一つだろう。常に機会を支配し、機会に支配されることがないようにするためだ。自分のデータを読めるのは自分だけで、他の誰かが読めないようにするために強力な暗号が必要だ。われわれには、コミュニケーションしたい相手とだけコミュニケーションするために、Torのような、あるいはクリプトフォンのようなコミュニケーション・ツールが必要だ。
ここまで展開された、監視への個人ができるアプローチが展開されていました。ポリシーオプションというのは、民間企業とのプライバシー情報のやりとりの話だと思います。ここで、分散化サービス、暗号化、フリー・ソフトウェアというキーワードが登場します。フリーソフトと分散SNSにつながる話でした。
p. 080: 暗号の力
ジェイコブ 近代のほとんどすべての権力は暴力、もしくは暴力の脅しによるものだ。暗号に関しては、どんな暴力も数学の問題を解くことはないと認めねばならない。
ジェイコブ これは重要な鍵だ。
彼らが暗号化されたメッセージを発見した場合でも、彼らが権力を持っているかどうかは関係ないということだ。彼らは数学の問題を解くことはできない。けれどもこれは、テクノロジーに関係ない人にとっては自明なことではないんどえ、強調しておかなくてはならない。この数学の問題が全部溶けるのなら、また別の話だけれど、当然、誰でも解けるのなら政府にも数学の問題は解ける。
ジュリアン けれどそれが現実なんだな。原爆を作ることもできるし、最強の国家でも解けない数学の問題を作ることもできる。
暗号を持った数人が、世界最強の力に対抗することができる。
だからプライバシーの側には自然の特性がある。暗号化アルゴリズムのいくつかは、どんな国にも解読できないからだ。
セキュリティーのエキスパートでない限り、実際にコンピューターをセキュアにするのは難しい。けれども、暗号は大規模盗聴の問題を解決することができる。グローバル文明にとって脅威なのは大規模盗聴だ。個人のターゲティングは驚異ではない。
最後に残された自由人だけが、この暗号を使ってこの完全な監視に対抗する方法を理解するだろう。一部のものは完全にオフグリッドで、ネオラッダイト、洞窟に籠り、あるいは伝統的な部族民で、現代経済の効率性を持たず、その活動力はとても小さい。当然、だれもがインターネットから離れることもできるが、その場合には影響力を行使するのは難しい。ネットから離れることは、自ら影響力から離れることだ。携帯電話でも同じだ。携帯電話を持たないことを選択すると、影響力を減らすことになり、それは前向きではない。
ここでは暗号の力とサイファーパンクがなぜインターネットに滞在するのかでした。暗号は最強の国家でも解くことができない数学の問題に、帰結することができ、これは個人でも利用できるという点で、個人が国家に立ち向かう上で非常に重要な要素のようです。
また、サイファーパンクがインターネットや文明から離れないのは、影響力を減らすことになるからとのことです。ここで思ったのは、その影響力で何をしたいのかということです。結局何がしたいのかがわからないままでした。自分一人が監視社会から助かりたければ、インターネットや携帯電話を捨てれば何も問題はありません。
p. 086: インターネットと政治
ジェレミー 今ではEUにACTAデータベースがある–ACTA (偽造品の取引の防止に関する協定) は多国間の協定で、SOPAやPIPAの青写真となったものだ。
けれども僕たちは市民として、この化け物をやっつけることができるかもしれない–インターネット・ツール・、メーリング・リスト、ウィキ、IRCチャット・ルーム等を使えば、簡単に–そして僕たちは新時代の到来を目の当たりにするかおもしれない。
僕たちハッカーがここにいて、技術的知識で人々を導き、「フェイスブックやグーグルより、自分のプライバシーを守れるこのテクノロジーを使うべきだ」と言えるのはすごく重要だと思う。
ジュリアン 特にこの2年間、君は世界中を訪れ、Torについて話した。匿名性を求める人、政府に対してプライバシーを求める人に対して。同じような状況を様々な国で見てきただろう。それは重要だったかい?
ジェイコブ もちろん。ものすごく重要だった。すぐに思いつくのがチュニジアに行ったことだ。僕はベン・アリの政権が倒れた後にチュニジアに行き、コンピューター・サイエンスのクラスでTorについて話した。そこには大学のテクノロジーの専門家もいて、彼らは手を挙げてこう質問した。「でも、悪人についてはどうします?」。そして彼女は、<情報黙示録の四騎士>をすらすらと挙げた–マネーロンダリング、ドラッグ、テロ、そして児童ポルノだ。「悪人についてはどうでしょう?」。この四つはいつも持ち出され、その驚異はプライバシーを守るテクノロジーを撃墜するのに用いられる。なぜなら明らかにこの四つはなんとかしなきゃならないからだ。そこで僕はクラスに尋ねた。「この中で <アマル404> のページを見たことのある人は?」。それはベン・アリ政権が革命前とその最中、アクセスを止めるために設置していた検閲ページのことだ。部屋にいた全員が、質問者を除いて、クラスの教授も含めて、手を挙げた。僕は質問者の女性を見て、言った。「周りの人を見てみなさい。クラスメイト全員です。あなたは本当に、先程の四つと闘うために、この教室内の全員を弾圧する価値があると思いますか?」。すると彼女は言った、「本当は、私も挙手します」。
本当はもっといろいろあったんだが、基本的に、それを自分に置き換えてみた人は、本当の問題に気づくことができた。それによって状況は劇的に変わった。そしてこれは世界中で、いつでも起こりうる–だがそれは普通は後で起きる、すなわち後になってから、テクノロジーが使えたのにと知るのだ。後になってから、「ああそうだ、それは悪人の問題ではない、なぜなら、実際には、私が何かについて本音を語り、それが権力者の気に食わなけりゃ、私が悪人ということにされてしまうからだ」。そして、そこに覚醒がある。
サイファーパンクの本質的な中身の話だったように思います。先程の質問の影響力を維持して何をするのか?という問いは、技術的知識で人々を導くことだと思います。そして、以前登場した情報黙示録の四騎士と匿名の天秤の話がありました。たった4のだめな例のために、全員を弾圧する必要があるのかというのがその回答でした。ここは本書の中でも特に重要な言葉だったように感じました。
p. 092: 重大な4のポイント
なぜならグーグルを作った人々は、何もグーグルを、すなわち過去最大の監視機構を作ろうとしていたわけではないからだ。しかし結果的にそれはそうなってしまった。
ジェレミー 君が言った中に、三つの重大なポイントがあると思う。
アンディ オーケー、じゃあ僕が四番目を挙げよう。
この三つのポイントは互いに絡み合っている。それをばらばらに扱うべきだというのではない。その一つは権威主義的な政権で、その権威主義的な政権がデジタル・テクノロジーの時代に持つ力だ。ベン・アリ政権の場合–今日の多くの政権に明らかだが–人々が何を知ることができるか、誰とコミュニケートできるかを決めることができた。これは強大な地下あrで、対抗すべきものだ。そしてインターネットは–自由なインターネットは-それに対抗するツールだ。もう一つのポイントは、構築ツールとより良いテクノロジー、検閲のような問題を迂回できるテクノロジーだ。だが基本的に、独裁者を倒すのにそのインフラの一部である構築ツールが有効だ。そしてもう一つのポイントは、君の言う <情報黙示録の四騎士> のような政治的な虚構で、毎日メディアを通じて政治家が使っている口実だ–「われわれは皆テロで死ぬのか?ならば愛国法が必要だ」「児童ポルノが氾濫している」「インターネットのいたる所にペド=ナチスがいるから、検閲が必要だ」。
アンディ ポイントの四番目、分散システムのアーキテクチャの次元は核となるものであり、これもまた人々の手に渡さねばならない。なぜなら今のわれわれはこの集中的クラウド・コンピューティングを手にしているからだ。
ジュリアン フェイスブックは完全に集中化されている。ツイッターは完全に集中化されている。グーグルは完全に集中化されている。それらは全部合衆国にある。すべては、圧政的な力をコントロールする人間がコントロールできる。
アンディ そしてわれわれは、クラウド・コンピューティングが企業に経済的インセンティブを与えるようにした。合衆国の企業が運営するいわゆる国際データ・センターで、より安くデータを処理できるようにしたのだ。これはデータを合衆国の管轄に持ち込むことを意味する。決済会社とかと同じだ。
ジュリアン クラウド・コンピューティングへのシフトの中に、非常に心配な傾向がある。一つのロケーションに莫大なクラスターのサーバーがある。環境のコントロールを標準化し、決済システムを標準化したほうが効率的だからだ。それは競争的な技術だ。一つのロケーションにサーバーを積み重ねる方が、展開するより安いからだ。
経済競争では、集中化したバージョンが勝ち残る。
アンディ 構造的観点は理解のために非常に重要だが–集中化されたインフラは、中央集権的コントロールと力の濫用を非常に容易にする–これはまた、隣の小さなスーパーを集中化された小売コンセプトで潰すようなものだ。
アンディ そう、ショッピングに起こったことと同じだ。分散化されたインフラのアプローチを続けることが非常に大切だ。
そしてわれわれは、ここでのわれわれの役割を知らなければならない–われわれの役割は分散化を保つこと、自分自身のインフラを持つこと、クラウドコンピューティングみたいなクソに頼らないこと、自前のものを持つことだ。
ジュリアン でもこれは技術の支配なのかもしれないぞ。自分のツイッターを始めるより、ツイッターを使う方が簡単だというのが本当なら。フェイスブックのほうがディアスポラなんかより簡単だと言うんゴア本当なら。クラウドコンピューティングの方が安いというのが本当なら、これらの技術とサービスが支配するだろう。われわれは自前のローカル・サービスを始めるべきだということではない。なぜならこういうローカル・サービスでは単に勝負にならない。少数のマイノリティにしか使われないだろう。貧者版のフェイスブックとか、それを使う人を期待するとかではなくてさ。
ジェレミー 僕はアンディに賛成したいね。そのアーキテクチャーは重要で、われわれが支持するあらゆるものにとっての中心だ。でもわれわれが責任を持って大衆に伝えなきゃならないメッセージだ。なぜならわれわれはハッカーとして、毎日インターネットを作り、それで遊んでいる技術者として、それを理解しているからだ。
集中の4の問題とそれへの対応として、分散型アーキテクチャの重要性が議論されていました。集中型のほうが価格競争力があり、勝つのは難しいのではないかという意見はあったものの、やはり重要だという話だったようです。
p. 109: インターネットと経済
ジュリアン 三つの基本的な自由を見たい。ヒズボラの党首であるハッサン・ナスララにインタビューした時…
ヒズボラは南レバノンに独自の光ファイバー・ネットワークを展開している。ならば国家の三つのの主要要素を持っていることになる–特定の地域における武力、コミュニケーション・インフラ、そして経済インフラ。これを三つの基本的な自由とみなすこともできる。運動の自由、運動の物理的自由–武力に阻止されることなく、ある場所から別の場所へ行けるということ。思考の自由、そしてコミュニケーションの自由、これは思考の自由に本来的に含まれている–公に語ることに対して威嚇と受けたら、コミュニケーションの権利を守る唯一の方法はプライベートにコミュニケートすることだ。そして最後に、経済活動の自由。これもまた、コミュニケーションの自由と同様、経済活動のプライバシーと一対になっている。だからちょっとこれらについて語ろう。これらは1990年代からサイファーパンクの中で醸成されてきた観念で、この非常に重要な第三の自由を提供しようというものだ。すなわち経済活動の自由だ。
ジェレミー だけどどうして三つの自由なんだ?EU基本権憲章でももっとある。
ジュリアン だからもっと派生的な自由はあると思うが、これら–僕の言う最初の三つは–基本的な自由で、そこから他の自由が派生する。
アンディ 合意できる点があると思うが、カネのシステム、カネを交換するための経済インフラは現時点でまったく酷いもんだ。そしてeBayのアカウントを持っている人は誰でも激しく同意するだろう。ペイパルのやっていること、VISAやマスターカードがやっていることは、実際には人々を事実状態の独占状態に追い込むことだ。
基本的な三つの自由が提唱され、その中でも一番難しい、経済的自由をめぐるがここから始まります。
p. 114: 電子キャッシュ
ジュリアン 電子キャッシュを作るのは重大なことだ。交換の媒体を支配することは国家の三要素の内の一つだからね。経済活動の手段に対する国家の独占を奪うなら、国家の主要三要素の一つを奪うことになる。
アンディ 悲しいことだけど、これは今現在の電子世界の未解決問題なんだ。二つのクレジット会社があり、両方とも合衆国に基盤を置く決済の電子インフラを持っている–つまり合衆国内のデータにアクセスできるということだ–彼らが地球上のクレジットカード払いのほとんどをコントロールしている。
ジェイコブ 財政問題は手を出すのが極めて危険なものだ。別の電子通貨ビットコインを作った人物が匿名なのにはわけがある。本当に成功した最初の電子通貨を発明した人物にはなりたくないだろう。
ジュリアン e-goldをやった人間は合衆国では結局起訴されているね。
ジュリアン 三つの基本的な自由の話に戻りたい。
コミュニケーションの自由はある意味で非常に拡大する。それによってわれわれは今、非常に多くの人とコミュニケートできている。他方、それは非常に劣悪かもした。なぜならもはやプライバシーはなく、われわれのコミュニケーションはスパイされる恐れがあり、そして実際にスパイされて蓄積され、その結果、われわれの不利に使われる。だから人との物理的で初歩的な交流は劣悪化している。
アンディ プライバシーは手に入るが、コストがかかる。
ジュリアン 経済的な交流もまったく同じだ。伝統的な経済的交流では、誰がそれについて知っている?君がマーケットへ行くのを見た人だ。今では、誰が君の経済的交流について知っている?もし隣人からVISAカードで何かを買うなら、それは伝統的なマーケット社会ではほとんど完全にプライベートにできていたが、今では誰がそれについて知っている?
ジェイコブ 誰でも。
ジュリアン 誰でも知っている。彼らは主要な西側権力とデータ共有をしている。彼らは全員それについて知っているし、そのことを永遠に蓄積する。
アンディ コミュニケーションのアーキテクチャが何であれ、カネはビットに過ぎない。これがインターネットのやり方だ。
つまり、もしも支払いの扱いについて分散化した経済の方法を求めるなら、インフラを手中にせねばならない。
経済的な自由の話が続きました。経済的自由だけはインフラを手中にする必要があり、難しいものとのことです。この直後にビットコインの話が何ページが続きますが、理解できなかったので飛ばしました。
p. 124: ビットコイン
ジュリアン 成長を続ければ、弾圧もあるだろう。それでもビットコインはなくならない。なぜなら暗号は圧政権力によるどんな単純な攻撃も無効化するからだ。だがビットコインに換気する外国為替サービスは、はるかに狙われやすくなるだろう。一方、これらの換金は世界のどこでもできるので、それ以上換金がなくなるまでは折り合いをつけるべき管轄はかなり多い。そしてブラックマーケットには独自の為替ロジックがある。ビットコインでやるべきことは、ISPとインターネット・サービス産業に採用させて、フェイスブックとかで買う小さなゲームなんかの支払いをさせることだ。それは効率的だし、ひとたび多くの産業に採用されたら、ロビーを形成して弾圧に対抗できる。
ジェイコブ 問題は、プライバシーに関する懸念は間違っているということだ。ここは正直になろう。
銀行のATMは現金のシリアル番号を記録し、どこで使われたか、誰が持っていたかを追跡できるようになっている。
このようなシステムを見て、インターネットを見るならば、われわれがインターネットに移住しても、プライバシーは向上していない
カネがあれあプライバシーを守るために最上のものが買える。カネがなければまず間違いなくプライバシーはない。インターネットに関してはもっと酷い。ビットコインみたいなものは正しい方向への一歩で、匿名のコミュニケーション・チャンネル、例えばTorみたいなものと組み合わせれば、Torのユーザーがビットコインを送って、君がそれを受け取ったこともわかる。
アンディ カネがあれば、より複雑になり、これらの事柄をマネーロンダリング法などと呼ぶが、ドラッグやテロ組織はインフラを悪用して悪事を働いていると言う。
ジェイコブ 情報黙示録の四騎士だ。
アンディ 問題は、カネのシステムに完全な匿名性を提供した時に何を買うか、ってことだ。実際に何が起きるのか?多分面白いことになると思う。人々はもう少し安心して、「まあそうだな、声を上げることはできる。議会へ行くこともできる。けれども何人かの政治家を買収することもできる」と言う。
ビットコインの普及の方法と、元々お金に関する情報はプライバシーがないという話でした。そして、決済に完全な匿名性が実現された時に何が起こるのかの考察でした。
p. 151: 検閲
ジュリアン 検閲はピラミッドのようなものだ。このピラミッドはその先端だけが砂から突き出していて、それは意図的なものだ。この先端はパブリックだ–名誉毀損訴訟、ジャーナリストの殺害、軍によって奪われるカメラ、等々–パブリックに宣言された検閲だ。だがそれは最小の部分だ。その先端の下には、次のレイヤがある。先端に行きたくない人、そこに行かないために自己検閲する人だ。そして次のレイヤは、様々な経済的誘因、あるいはポトロン的誘因で、何かを書く人に与えられる。次のレイヤは、生の経済だ–ピラミッドの上層からの経済的要素を含んでいないとしても、それにてういて書くことが経済的になるものだ。それから次のレイヤは特定の教育レベルしかない読者の先入観で、だから一方では嘘の情報で操りやすい、他方では洗練された本当のことを告げることすらできない。最後のレイヤは配分だ–縦おば、一部の人は特定の言語の情報にアクセスすることができない。これが検閲のピラミッドだ。
検閲がどういう仕組でなされるのかの説明でした。この直後にも例の情報黙示録の四騎士がまた登場していました。
p. 184: オペラハウスの鼠
ジェレミー その知識を自由に共有すること、そして知識のためのコミュニケーション・チャンネルが自由に流れるようにすること、これが君のやっていることだ。Torはフリー・ソフトウェアで、今日のように広まったのは、選択肢とテクノロジーとモデルを築くような形で自由の認識を埋め込むからだ。
ジェイコブ 自由な世界にはフリー・ソフトウェアが必要だ。そしてフリーでオープンなハードウェアも。
ジュリアン だけどフリーというのは拘束されないという意味だから、人が中を弄くり回し、その仕組みを見ることができるって意味だよな?
ジェイコブ まさに。われわれには民主主義の法のようにフリーなソフトウェアが必要だ。誰もがそれを学び、それを変え、それを本当に理解し、望み通りの働きをする。フリー・ソフトウェア、フリーでオープンなハードウェア。
フリーソフトウェアの話でした。
p. 196: 訳者あとがき
インテーネットは確かに全世界に革命をもたらした。一方、これに対する弾圧もまた過激化の一途を辿っている。彼らは一見だれもが反対できない、至極真っ当な理由をつけてインターネットを弾圧に現れる。すなわちテロリズム、マネーロンダリング、麻薬戦争、そして児童ポルノだ。これらは一見、正当な理由であるように見えるだけに、錦の御旗としては厄介であり、誰にも反対できない形でネットを猛襲し掌握する。アサンジの言う、「情報黙示録の四騎士」である。そしてこれら四騎士の背後に、あらゆる人の情報をひたすら収集・蓄積・支配する、アサンジの言う「強者」がいる。彼は言う、「本書は警告である」と。今こそ人々はこのような「敵」の存在を知り、これに対抗していかねばならない、とアサンジは訴える。
最後に本書で度々登場する情報黙示録の四騎士とその背後の存在への警告でした。
結論
Suji Yan絶賛書でした。無政府主義的な思想、Suji Yanが分散技術や暗号を支持する理由の一部が垣間見えるものでした。私はFSF支持者であるものの、サイファーパンクという概念はあまり興味がなく、ほとんど理解できていませんでした。本書を読んだことで少し理解が深まりました。
特に情報黙示録の四騎士とその反論は重要な議論だったように感じます。
フリーソフトウェア運動や、分散SNS、Web3の拡大そういったいくつかの要素とリンクする、ベースの話でした。本書を読んだ限りだと、経済的自由、決済の自由化が当時から今もかなりのボトルネックになっているように感じました。
ただ、全ての人が読むべきというのはSuji Yanの過大評価に感じました。貴重な本ではあるものの、座談会形式で要点を理解しづらく、ある程度サイファーパンクに理解のある人向けに書かれているようで、要点を理解するのが難しく労力のかかるものでした。普及させたいのであれば、とにかく馬鹿でもわかるように手短にわかりやすく説明してほしいです。個人的には本書なんかより、RMSの「フリーソフトウェアと自由な社会」のほうがわかりやすくてよっぽど良かったです。
ただ、サイファーパンクの目的がいまいち理解できません。政府に不審があるから匿名、分散で自分を守るというのはわかります。影響力を持つために既存のインフラにのるしかない。じゃあ、影響力を持って人々を導いて結局何をしたいのか?そこが見えません。既存のものに文句を言っているだけのように見えます。気にいらないなら自分たちの国を作るだとか、具体的に何をしたいのか、何が理想なのかをもう少し明確にしてほしいです。
Suji Yanが支持するWeb3も結局現状はマネーロンダリングや詐欺の温床となっており、情報黙示録の四騎士を自分たちで突き進んでいます。自分たちで自治できないなら、それはいくら主張しようが響きません。
少なくとも日本は平和な国で、反政府的活動や権力者と闘うような、危ないことをしない限り、自分のプライバシーを手間や労力をかけて守るのはただの無駄になります。これが独裁国家などであれば話が大きく変わるのでしょうが、少なくとも日本人にはあまり響かない内容です。無駄がかかる分積極的に実践したい人はいないでしょうし、マイノリティーから脱することは無理で、結局影響力も持てず意味がないと思います。時間の無駄です。
情報黙示録の四騎士や政治の問題がつきまとう以上、私はフリーソフトウェアだけが信用できて正しいと思います。匿名・暗号化はおまけです。ソフトウェアやハードウェアがフリーなら、改造して誰でも可能です。やりたい人がやればいいことです。サイファーパンクにはフリーソフトウェアが必須ですが、フリーソフトウェアには匿名・暗号は必須ではありません。フリーソフトウェアのほうが受けが広いのです。だから、フリーソフトウェア運動だけを推進したほうが私はよく思いました。
評価を4にしましたが3よりの4です。新しい知見は得られたものの、腑に落ちない部分が多く、満足度は高くありません。

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